エンジニアはどこへゆくのか 〜電機メーカ開発者の悩める日々~

組み込み系エンジニア。新卒でメーカに入社してからの日々。思ったこと、考えたことを書いていく。1回転職した。

彼は医者になり、僕はエンジニアになった。高校の同級生と飲んで考えたこと。

高校は田舎の進学校だった。既に平成の中頃になろうというのに、詰め込み型の教育方法だった。授業は8時間もあり、土曜日も出なければいけない、4当5落(今の子は知らない?)とか言っちゃいそうな昭和感のある学校だった。はっきり言って教員の質も低かった。

 

彼とは2年と3年で同級生だった。当時の成績は同じくらいだった。2人とも学年で1桁。ただ、僕は波があり、彼は安定していた。僕から見た彼の印象は、あまり効率的ではないがストイックだった。だから、本気を出せば自分のほうが賢いなどと思ったこともあった。当時から彼は医者を目指していた。彼から人を救うとかそういう思想は聞いたことがない。父親が歯科医でそれを超えるためと言っていた。自分には理解できなかった。僕は就職がいいと聞いていた工学部にでも行くかと思っていた。

 

僕は当時から睡眠障害の癖があり、成績の波も大きく、3年間の持続力はなかった。最後には成績が下降した。しかし、そこそこの大学には受かったため行くことにした。学科もいいかげんに選んだ。半導体工学だった。入った後に気づいたが全然興味を持てなかった。

 

一方の彼は受験で苦労した。なんと3浪した。しかし、医学部志望は曲げなかった。その間も半年間隔で彼と会った。彼は変わらずストイックだった。結果は出なくともいつも彼は変わらなかったし、ずっと医学部志望だった。結果、旧帝大の医学部に受かった。

 

その間、僕はキャンパスライフを謳歌していた。バイト、彼女、酒、サークル、バイク、釣り、ボーリング、ダーツ、ビリヤード、カラオケ、ギャンブル。授業には興味を持てないままで睡眠障害もひどいものだった。1年留年した。ときたま彼と会ったときにボーリングやダーツに連れて行った。彼はあまり遊ぶ時間もない状態だったので、おもしろいと言って喜んでいた。そんな彼に対して、ストイックに何かを極めるよりもこうやって人生を楽しんでいる自分のほうがうまく生きていると思っていた。

 

彼は大学生になってもストイックだった。勉強し続けていた。彼から聞いた話だが、医学部の同期は優秀で遊んでいるのに単位はしっかり取る、自分より成績もいい、とぼやいていた。しかし、彼はずっと勉強していた。麻雀はやっていたみたいだし、彼女もいたが、僕から見た彼のキャンパスライフは遊びが少ない、地味なものだった。

 

僕は大学院に行った。大学3年のときにリーマンショックがあって、就職状況が悪化したのと、もう少しモラトリアムを延長したかった。興味はないが半導体の研究をした。授業よりは面白かったので少しずつ研究を真面目にやるようになった、とは言っても学科の同期に比べれば半分もしていないと思う。相変わらずキャンパスライフを満喫していた。

 

少し僕の話が続く。修士で就職活動をしたときに、半導体にはこれ以上興味を持てないと思って、電気設計の職種で受けた。面接は得意なのでうまいこと受かった。配属先はアナログ回路設計だった。アナログ回路職人になろうと思った。分野を変えたために最初は苦労した。基礎となる知識も経験もなかった。それでも働いて3年で製品も立ち上げた。しかし、異動を告げられた。次の職場では回路設計は極められそうになかった。広く浅い技術とプレゼンや事務処理のスキルが求められた。そこでがんばってそれらを身に着けた。4年が経った。ビジネススキルは身についたものの、技術は身についてなかった。このままではいけないと転職した。また分野を変えてしまった。ソフトウェア設計者になった。基礎となる知識と経験がないため、苦労している。

 

一方、彼は医学部を卒業し、臨床医になった。寝る間もないほど忙しかったらしい。そして5年ほど働いて大学の医学部に修士として戻り、今は研究している。医学の世界は奥が深く、興味深いらしい。今でも臨床はするらしく医療事故のリスクがあるため、気を張らないといけないそうだ。前回会ったときも、翌日は休みだが気になる患者がいるから病院に行くと言っていた。

 

彼と話していて医師としての自負を感じた。彼には当然のようにプロ意識がある。一方の僕は、分野を転々と変えてきたためにいつも素人に毛が生えた程度で終わってしまう。何か専門があるのか、何の分野のプロなのかと問われたときに口ごもってしまう。恥ずかしい限りだ。

 

思えば彼はずっと積み重ねてきた。医学の分野を歩む以外の話は聞いたことがない。やっぱり医者はあきらめよう、やめよう、などと一度も聞いたことがない。対して自分は何かの分野を歩もうと決めるわけでもなく、転々としてきた。高校を出てから15年が経つ。15年間投資し続けた人と、そうでない人ではその差は明らかだろう。

 

上でも書いたが、今年、僕は転職した。そのためにまた今の分野で素人になった。ドラクエと一緒で、転職(というより転分野)はレベル1からなのだ。しかし、ドラクエと違って、痛いことに歳を取る。33歳の素人ってどうなんだ。大卒で働いていたら10年戦士だ。1つの分野でがんばってれば専門家になれるだろう。僕は今からその道を歩もうというのだからバカとしか言えない。しかも後戻りはできない。

 

彼は決して要領がいいわけではなかったし、そこはあまり変わってないのかもしれない。僕は要領がよくていろんなことを器用にできるのかもしれない。しかし、彼は医者として脳神経外科の専門家になりつつあり、僕はソフトウェアエンジニアの素人になった。

 

彼に対して勝った負けたの感情はない。他人は自分を省みる鏡なのだ。

 

最後に「ナニワ金融道」の名言を著して終わりにする。

「後悔先に立たず、オチンポ後ろに立たずでんな!」